614人が本棚に入れています
本棚に追加
『自分はちゃんと笑えてるんでしょうか?もう長い間笑うなんて事してませんから。笑い方なんて忘れてしまいました。』
苦笑いをして矢部さんが言った。
悲しい人。
「矢部さん。人はね、悲しい事も辛い事も沢山あるけど、その分楽しい事も嬉しい事も沢山あるんだよ。それをどう思うかは自分の気持ち次第だと思う。自分の気持ちに素直になれば、自然に笑顔にだってなれる。笑う事を忘れるなんて事はね。絶対に無いから。だからね。矢部さんはちゃんと自分の気持ちを大切にしなきゃいけないと思う。泣きたい時は泣けばいい。嬉しい時は喜べばいい。楽しい時は笑えばいい。ただ、それだけの事だよ。」
矢部さんはきっと小さい時から辛い事が多すぎたんだ。
笑う事も無く、ずっと苦しんだ人なんだと思う。
だけど、今は笑えるはず。
もう昔じゃないから。
新しい人生、自分で選んで進めた人だから。
『…蘭花お嬢。自分はまだ笑えるんでしょうか?笑ってもいいんでしょうか?自分の犯した罪は笑う事を許してもらえるんでしょうか?』
今だに過去の罪を背負って生きているんだ。
それが、矢部さんから笑顔を奪っているんだ。
私は矢部さんとは違うけど、人を信じられなくなった瞬間に笑う事を止めた。
感情の起伏は自分の気持ちひとつ。
自分を隠し押さえる事で感情は表には出てこない。
それは、自分を否定する事でとてつもなく悲しい事。
過去の出来事が矢部さんを今も尚、押し潰しているんだ。
西極組に来た事で生きることの意味を知った。
だけど、それは矢部さんにとって罪を背負って生きて行く事。
それは違う。
矢部さんは生きることの意味を履き違えている。
最初のコメントを投稿しよう!