【暴走Ⅲ その参】

68/99
前へ
/334ページ
次へ
「……矢部さん。矢部さんの過去は翔兄に聞いた。」 矢部さんを見据え言った。 私の言葉に一瞬、目を見開いたがすぐに俯いて矢部さんは言った。 『……そうですか。自分はどうしようもなく駄目な人間です。感情が抑えられず、親に手をかけた最低な人間なんです。』 「矢部さん。顔あげて。」 私に言われ、ゆっくり顔を上げた。 翔兄、竜兄、來希は何も言わず私と矢部さんの話を聞いていた。 「あのね。矢部さん。あなたは今、西極組に居る。自分で選んだ人生を歩んでる。実の親に手をかけた事は許される事じゃないかもしれない。だけど、それは自分を護る為だったんでしょ?まだ、自分の人生歩んで行きたかったからじゃないの?どうでも良ければそん事しない。きっと、あなたの親と同じ事してた。それに、あなたはちゃんと罪を償った。父さんも言ったはず。 罪を償ったら一から育ててやるって。 それは、全てをゼロからやり直す事。西極組に来たって言うことは、父さんに全てを託したって事。だったら一から育ててもらわなきゃいけない。いつまでも過去の罪を背負って生きてる事は父さんの意志に反してる。矢部さんは父さんに忠実なはずよね。でも、今矢部さんの言うことを聞いた限りは違う。父さんの言った一から育てるって事の意味をよく考えて。竜兄が言った様に矢部さんは昔から無表情だった。それって、いつまでも自分を押さえて感情すら出せずに押し殺して生きてるって事だよ。西極組の為に命預けたんじゃないの?だったら、西極組は西極組のやり方がある。父さんを見て思わない?素直に子供みたいに感情を出す。でも、やらなきゃいけない時はしっかりやる。翔兄だってそう。ここに居る人達は皆。やらなきゃいけない時だけでいいのよ。それが当たり前の事。それが出来なきゃ西極組の一員じゃない。矢部さん。もう、あなたは西極組の一員なんだから。父さんが命をかけて救った命なんだから。つまらない人間にはならないで。人生楽しめる人間になって。それは、きっと父さんも思ってる事。だから、今日だって休暇をやった。全てを忘れる事は出来ない。だけど、今を楽しむ事は出来る。自分の気持ちひとつで。」
/334ページ

最初のコメントを投稿しよう!

614人が本棚に入れています
本棚に追加