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次の日。
翔兄は普通だった。
それがまた私には見ていて辛く感じた。
その日は、組の用事があると翔兄は出掛け、私と竜兄はたまには身体を動かそうと、道場で過ごした。
竜兄は夕食後、少しゆっくりしてから帰っていった。
翔兄は私が寝る時間まで帰って来なかった。
少し気がかりだったが、仕事をしていた方が気が紛れるのかもしれない。
竜兄もそうだったと言っていたから。
そして月曜日。
朝、リビングへ行くと翔兄の姿は無かった。
どんなに夜遅くても、朝御飯はちゃんと食べてたのに。
「おはようございます。詩音さん。翔兄は?帰って来てないの?」
椅子に座り詩音さんに聞いた。
『翔?朝方、帰ってきたみたいよ。飲み過ぎたから、ご飯いらないって組員が言いに来たわよ。珍しいわよね。』
珍しい所じゃない。
家族皆で朝食を採るようになってから、初めての事だ。
急いで食べ、翔兄の部屋へ行った。
「翔兄。入るよ。」
ドアを開け、中に入る。
『おぉ。どうした?』
この間の様にベッドに凭れタバコを吸っている翔兄が居る。
また、一人で泣いたのだろうか。
目が少し赤い。
「……翔兄。大丈夫?」
『は?何がだ?あー。ちっとばかし、飲み過ぎたかな。』
タバコを消し、無理に笑う翔兄。
「翔兄。無理しなくていいから。辛いの分かってるから。一人で泣かないで。翔兄が支えてくれた様に私も翔兄を支えてあげるから。だから、泣かないで。」
翔兄の隣に行きベッドに腰かけた。
『…何言ってんだよ。俺は泣いてなんか……』
言葉に詰まる翔兄を涙を見せたくないであろう翔兄の頭を横から抱え込んだ。
その涙が見えない様に。
その涙を見ない様に。
翔兄は私の腕を両手で掴み声を押し殺し泣いていた。
《男の涙は見せるものでも見るものでもねぇ。》
父さんがよく小さい頃に翔兄と蓮兜兄、竜兄に言っていたのを思い出した。
しばらく、そのままの状態だった。
『…蘭花。悪い。学校だろ?ありがとな。後、蓮兜には何も言うなよ。あいつも苦しんでると思うから。言わないでやってな。』
自分がどんなに辛くても、相手を想いやる気持ちが痛い程、伝わってくる。
「…ん。分かった。じゃあ、行ってくるね。無茶しないでね。」
それだけ言って部屋を後にした。
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