【暴走Ⅲ その四】

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「私。竜兄居ないと本当に生きていけないかも。竜兄。絶対に離れないでね。私から離れないでね。」 竜兄にギュッと抱きつきながら、耳元で囁く。 『誰が離れるかよ。絶対、離さないから。』 そう言ってキスをする。 何だろう。 抱き合う度にキスをする度に溢れるこの想いは。 自分でも怖いくらいに溢れてくるこの想いは。 以前、読んだ本にあった。 本当にあったあの有名な事件。 不倫から始まった恋だったけど、二人で逃避行して宿で朝から晩まで、ずっとずっと愛し合う。 少しも離れず、ずっとずっと一緒で。 愛する人とずっと一緒に居る為のお金を工面する時だけ互いに少し離れても匂いだけでも欲しくて。 一緒に居ない時は堪らなく不安で。 あまりにも愛し過ぎて最後には愛し合ったまま相手を殺めた。 愛し合った証として相手自身を持ち歩いた女。 あの有名な話。 私は竜兄が居なくなる様な事はしない。 だけど少し分かる。 その女の気持ちが。 ずっと一緒に居たい。離れたくない。 溢れ出す想いは自分でも止められなくて。 本当に。本当に好き過ぎたんだと。 その女は不安だったんだろうか。 愛する人と一緒に居れなくなった時の事を考えると怖かったのだろうか。 それならいっそ愛し合ったまま、その証だけを確実に欲しかったのだろうか。 愛に狂った女。 愛に狂わされた女。 幸せだったのだろうか。 そんな幸せもあるのだろうか。 私の愛は竜兄が存在する事でしか成立しない。 だけど、愛し過ぎた想いだけは分かる気がする。 自分でもどうしたらいいか分からないくらいの愛を感じる想いだけは。
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