【暴走Ⅲ その四】

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竜兄と身体を重ね愛し合う。 背中に誓いのキスを落とす竜兄に思う。 「ねぇ。竜兄。もし、私がお願いだから殺してくれって言ったら、竜兄はどうする?」 うつ伏せたまま聞く。 『何だよ。それ。』 何言ってんだと言わんばかりに竜兄は言う。 「愛してる人の願いなら聞く?」 更に聞いてみる。 『いくら蘭花の願いでも、それだけは聞けねぇ。絶対に。』 「私が泣いてお願いしても?」 『泣いてお願いしても。絶対聞けねぇ。蘭花が居なくなるって事は俺にも死ねって事だろ。自殺行為だな。』 「そうだよね。私もそう思う。」 『何だ。それ。訳分かんねぇ。どうかしたのか?』 「ん。竜兄を好き過ぎてね。ただそれだけの事。」 仰向けになり横に居る竜兄に抱きつく。 そうか。と、竜兄もギュッと抱き締める。 どんなに愛していても愛されていても、自分の勝手で相手を傷つけてまでその愛を手に入れようとは思わない。 相手が幸せに笑って生きているから、その愛は存在する。 相手が居なくなってしまっては、行き場のない愛が自分を孤独にさせるだけ。 あの有名な事件を起こした女と私の愛の違いはそれだと思う。 人それぞれ愛の形はあるけれど、相手に押し付けるのはもはや愛ではないと私は思う。 たとえそれが相手の望みでも。 自分の望みと相手の望みが違えば愛は成立しない。 すれ違う愛ほど悲しいものはないから。
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