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志穂さんは、花束をじっと見つめながら続けた。
『それから、一年位してからかな。翔が突然、別れたいって言ったのは。理由を聞いても、ゴメンな。って言うばっかりで。』
「…翔兄が極道の息子だって知ってたんですか?」
『その時は知らなかったわ。別れた後に知ったけど。だから、あぁ。そうかって思ったの。きっと、翔は私の事考えたんだって。』
「翔兄が言ってました。愛していた。って。愛したからこそ、別れた。大切だから別れた。って。自分の人生を背負わせる訳にはいかないって。」
極道の家に入ると言う事は、それなりの覚悟がいること。
『ん。分かってたわ。翔は、優しい人だから。また、私を泣かせてしまうって思ったのよね。そんな人の子供だから。だから、どうしても産みたかった。一生会うつもりはなかったから。一人でもいいから、あの人の様な優しい子に育てたかったのよ。それなのに、こんな事になって……。』
「…今、翔兄は心から愛する人が居ます。だけど、その人に真実を告げて暫くの間、離れたんです。ずっと一緒に居た人なのに。それでも、翔兄が話したのは志穂さんを心から愛していたからです。昔の事かもしれない。だけど、昔本当に愛していた人との子供を
育てようって決めて今の恋人に話したんです。一時、荒れたんですけど。」
『ん。蓮兜君でしょ?付き合ってる時に、蓮兜君もよく一緒に居たわ。今の関係を聞いても別に驚かなかった。逆に、翔が蓮兜君と一緒に子供を引き取るって言ってくれたときは嬉しかった。相変わらず、この二人は優しいなって。私も…もう長くないの。子供を残して先に逝っちゃうのは辛くて…身内もいないし…私の様に施設かなって…そう思った。……だから…本当に…嬉しかった。翔が…あの子の父親が…引き取って…育ててくれるって…本当に…嬉しかったの…。』
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