【暴走Ⅲ その弐】

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帰りのタクシーの中、思う。 今日、やっぱり志穂さんに会いに行って正解だった。 志穂さんの志稀君への愛情の深さがよく分かったから。 そして、翔兄への愛情の深さも。 お互い愛し合っていても、相手の幸せを願って別れなければならない事もあるんだと知った。 切ないけれど、それでも心が通じている。 それも、またひとつの愛の形だと。 蓮兜兄は全てを理解し、それでも翔兄を愛する。 翔兄も蓮兜兄を志穂さんとまた違う形で愛する。 それから、暫くして志穂さんが危篤状態になったと翔兄に聞かされた。 すぐに竜兄と病院へ駆けつけた。 「翔兄!志穂さんは?!」 すでに病院に居た翔兄と蓮兜兄の元へ行った。 『ん。意識が戻らない。医者が言うには今夜が山だろうって。』 ……そんな。 「志稀君は?!志稀君は何処に居るの?!」 『あぁ。志穂の側から離れないんだ。』 病室に入ると意識の無い志穂さんの横で、志穂さんの手をギュッと握りしめる志稀君が居た。 「志穂さん。私の愛する人、連れて来ました。輝条 竜って言います。凄くいい男ですよ。」 志穂さんの耳元に囁く。 竜兄も志穂さんの隣に来て挨拶をする。 『志穂さん。初めまして。輝条 竜です。』 志穂さんを見ると少し微笑んだ気がした。 きっと、聞こえているんだ。 『お姉ちゃん。お母さん。もう起きないの?』 志稀君がそう言った瞬間だった。 機械の異常な音がしたと思ったら、医者や看護師達がバタバタとしだした。 「志稀君。こっちにおいで。お姉ちゃんと手繋ごう。」 志穂さんから手を離そうとしない志稀君の手をそっととり、ベッドから離れた。 医者が志穂さんに色々していたが、医者から出た言葉は。 『午後9時55分。御臨終です。』 志穂さんは、26歳という若さでこの世を去った。 翔兄は黙って病室を出た。 『お姉ちゃん。お母さんは?お母さんの所、行く。』 志稀君と手を繋いだまま志穂さんの隣へ行った。 凄く穏やかな顔だった。 少し微笑んでいて綺麗だった。 「…志稀君。…お母さんはね。…天国に行っちゃったの。…志稀君。…これからは…お母さんの愛した人と…一緒に暮らそうね…。』 『お姉ちゃん。泣いたらダメだよ。ボクも…泣かない…だから。…泣かないで。』
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