【暴走Ⅲ その弐】

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その小さい手が私の手をギュッと力強く握った。 泣かないとお母さんに約束したから。 私は膝を付くようにしゃがみ、志稀君を抱きしめた。 「…志稀君…今日だけは…今日だけは…泣いていいから…今日だけは…。」 その言葉に、ずっと我慢してきたのだろう。 志稀君は私にしがみつき、声をあげて泣いた。 きっと、翔兄の所へは蓮兜兄が行っている。 私と志稀君の様に一緒に涙を流しているのだろう。 廊下に悲しい叫びが響いていたから。 志穂さんは志稀君の荷物を全て纏めて病室に置いていた。 翔兄が志穂さんの親友と話をして、こちらへ来た。 そして、私と志稀君が座るソファーの前で志稀君の視線へとしゃがみ込んだ。 『志稀。今日からお前は、俺と暮らすんだ。お母さんは、もう居ない。お前は、男だ。俺がお前を強く逞しく育てる。だから、泣くんじゃない。お母さんと約束しただろ。泣いていいのは今日だけだ。男が涙を見せたらダメだ。いいか。志稀。』 昨日、志稀君は5歳になった。 志稀君は翔兄の言葉をただ黙って聞いて、そして頷いた。 この子は強い。 きっと、翔兄と上手くやっていける。 そう思えた。 「志稀君。お姉ちゃんも一緒だから。あそこに居るお兄ちゃん達も、いつも側に居るから。大丈夫。志稀君は一人じゃないから。」 翔兄は昨日、志稀君の5歳の誕生日に志穂さんから自分へと志稀君の籍を移したらしい。 その時に志穂さんが翔兄に言ったらしい。 《翔の妹。蘭花ちゃん。あの子は、きっと志稀を大切にしてくれる。あの子の目は嘘をついていなかった。あの子、凄く強い子よね。色んな事、乗り越えてきたって顔してる。凄くいい顔してる。翔だけじゃ心配だけど、蓮兜君と蘭花ちゃんが居てくれるから、安心だわ。》 と。 俺はそんなに頼りないか?と翔兄は言っていたけど、それは志穂さんなりの翔兄への秘かな逆襲だったんだろう。 愛していたのに自分の為に勝手に身をひいた翔兄への。
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