第53話 【四凶《しきょう》 アカギ】

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    「一目お会いしてェんだけどなァ。ひいじいさんが一度拝顔(はいがん)したきりそれっきりらしいし」 オメェなら、大僧正の病状(びょうじょう)は知ってんだろ? 「さよう。とうに、“視えて”おります」 老妖(ろうよう)は、人差し指と中指を立て、口角をあげた。 温厚を絵に描いた老獪(ろうかい)である。 実態は、人心を読み取る銀嶺(ぎんれい)の“山神”。 名を、『サトリの翁(おきな)』という。 「なれば、教えたもう」 「わ、わしもみてくれい。この『カサ』ァ―――いったい、いつになったらおさまるんだ?」 「あなたがたのみにくい執着心がおさまりましたれば、お教えして差し上げましょう」 一瞬、時が止まった。 「は、はははっ、そう冷てェコト言うなや、なっ?」 「いま、『ぶっ殺すぞ』と思いましたね?なればわたしは『反吐が出る』とお返しいたしましょう」 「あンだとォォォ!!!」 フィクサーは激昂し、コーヒーカップをはらいおとした。 「サトリの。それはちと言い過ぎですぞ?」 「あなたも同様です。心配せずとも、あなたが八大天狗の次期総帥になる日は永久に来ません。それだけはお伝えしておきます」 この上ない侮辱(ぶじょく)に、眉を寄せるテング。 「やめよ、豊前の」 ことばでなだめるタヌキ。 テングは、足元かわ湧き出る殺気を、すっとおさめた。 はははははは―――声高にひびく笑い声が、大部屋にこだました。 こつこつと、革靴の音がひびく。 「だれもが予測できんだろう。オメェら、権威(けんい)ある“栄光”の座を、こっそり狙ってやがる」 「ほざけ。だれがそんなことを?」 「“カオ”に、そうかいてあんだよ」 フィクサーは、ふんっと鼻を鳴らした。 「おぬしがくるのはめずらしいのう。知っておったかサトリの」 「イカレタ“仙妖(せんよう)”に訊くんじゃねぇよ」 「おぬしを見るのも―――82年ぶりか」 「タヌキジジイも、元気そうでよかったぜ」 「ウワサでは、白ギツネらと結託し、なにやら画策しておるようじゃが?」 「わが国家機関も、オメェの言動にはつねにアンテナを張り巡らせている。最近、ちょこちょこ動き回ってるようだが」 まさか―――わしら人間界に何かしようとしてんじゃねェだろうな。  
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