真夏の名残の花。

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地上百メートルともなれば夏の陽射しは日中なら随分きついが、夜七時を迎えた今では、周囲は明るくとも燦々と輝く陽は降り注がない。 うだるようなアスファルトからの照り返しや湿気も感じられず、地上では皆無だった風が吹いている。 スカイバルコニーと呼ばれる展望デッキ。 水上はぐるりと張り巡らされたパイプの格子にもたれ、瀬名は格子に沿って設置されているベンチに腰掛けていた。 「初めて?」 「はい、地デジ化してからは。 小学生の頃に社会見学で来たきりなんです」 そう答えた瀬名の視界には、360度のパノラマで手前にはビルがひしめく市街地が、遠くはぼんやりと山脈が広がっている。 二人が訪れたのは名古屋は繁華街の栄、久屋大通公園の中央に位置するテレビ塔だ。 「あと二十五分か。 早く着きすぎちゃったね」 「景色見てたらすぐですよ。凄く眺めいいですもん。 あ、でも、どうしてテレビ塔なんですか? この間行った東山の…スカイタワーの方が高い気がするんですけど」 「東山の方は駐車場からの距離が長いからね。 ここはすぐ地下にあるし、それに」 続けて水上が微かに笑みを含ませる。 「この間の瀬名、タワーまでの坂道でへばってたから。 しかも捻挫じゃ、辿り着けても花火見る前に瀬名が倒れちゃう」 「へば…っ」 あまりに的確な表現に、瀬名は二の句を継げないでいる。 確かに相当息は切れていたし、己の体力の無さと日頃の怠慢は自覚している、けれど。
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