桜とスーツと携帯電話。

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「………。 大した仕事じゃないよ…と、ゴメン、電話出るね」 カッターシャツの胸元のポケットの中で、連続するバイブ音と共にLEDが点滅している。 水上は立ち上がると、瀬名から2、3歩離れて携帯を取り出した。 「―――はい、…あぁ、どうした…?」 時折聞こえる彼の声色は瀬名に対するものより低く、先程までの柔らかな笑顔は消えている。 (聞いちゃいけなかったかな…) 上手くかわされてしまったような気がするのは、文字通り彼女の気のせいだろうか。 だが以前の職業を尋ねた時の、一瞬曇った彼の表情に瀬名は気付いていない。 通話を終えた水上は、瀬名の隣に戻ると、ふぅと小さく溜め息をつく。 「もう少ししたら会社に戻らないといけない。残念」 困った顔で、東屋から覗く池を眺めた。 「折角会えたばかりなのに、ごめんね。ちょっと部下がトラブルに遭ったみたいで…」 「い、いえ、もとはといえば私が携帯なくしたせいなんで…わざわざ来て下さったんだし! ありがとうございました」 慌てて立ち上がり、今にでも歩き出しそうな瀬名だったが。 水上の腕がそれを引き留めた。 「送るよ。それぐらいの時間はあるから」
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