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昨日参加したイベントの準備の為に、休みを他の社員と交代してもらっていたらしい。
「ったく、お姉ちゃんは相変わらずボーッとしてるってゆーか…。
悪い人や変な人はお姉ちゃんみたいなのが一番声掛けやすいんだよ。絶対に騙されてついて行かないようにね」
「…はい、気をつけマス」
溜め息混じりに強気な口調で妹に責められ、思わず瀬名は敬語で答える。
もともと年の差は一つしかないが、これではどちらが姉で妹だろうか、と二人は同時に同じ事を思う。
心配性で警戒心が強くて天の邪鬼で、しかし姉想いな彼女の気持ちは、瀬名にとっては決して悪いものではない。
「ってゆーかさ、何でそんな所に座ってんの?」
「…え?あ、いや、特に意味はないんだけど」
帰宅して早々、壁にもたれながら座り込んでいた場所は丁度ゴミ箱の真隣で。
気付いた瀬名はすくっと立ち上がる。
―――カタン
何かが落ちたような、少し重みのある高い音が僅かに鳴った。
だがその場に居た二人共、音にも原因にも気付かないでいる。
「あ、そうそう」
着替えの為に寝室に向かおうとしていた沙那は、長いポニーテールの髪を揺らして振り向き様に告げる。
「今から私、また出掛けるから。御飯は各自って事でいい?」
「ん、りょうかーい」
「……あのさ、お姉ちゃん…」
「うん?」
暫しの沈黙を置いて、沙那はやや遠慮がちにポツリと名を呼んだ。
「…私、会おうと思うんだ。織姫さんに」
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