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「えっ、織姫さんに!?もしかして今から?」
思いもよらぬ沙那からの突然の報告に、瀬名はその場で酷く驚く。
織姫――昨日二人が参加したイベント内で、沙那が声を掛けられたと言っていた大手サークル『ステラ』の個人名だ。
だが、現れた自称本人は男性であったらしく、男嫌いの激しい沙那は彼からの依頼を信用出来ないと嫌悪していたはず。
「…うん、今から少し会ってくる。ちょっと話聞くだけならいいかなって思って…」
何でもないような素振りで、だが何処かはにかんだ様な顔付きで言う。
昨日はあんなに胡散臭いだの頑なに拒否していたのに、どういう風の吹き回しだろうと瀬名は思う。
沙那のこれまでの男性に対する毛嫌いは尋常とは言い難い。
熱でもあるんじゃないかと、珍しい態度の妹の顔を瀬名は覗き込んだ。
「沙那、何かあった?」
「…や、何かっていうかさ…」
気恥ずかしそうに、声のトーンを押さえて沙那は俯く。
「…あんまり自分で自分を縛るのは良くないなって思った、ってゆーか、会いたいって気持ちに素直になろうと思った…みたいな、さ…。
今まで思い込みに囚われすぎてたかな、ってちょっと思って…」
(…沙那…)
照れ臭くてたまらないという風に、次第に語尾は消えていくも懸命に言葉を選んでは心情を述べる。
そんな彼女の姿勢に、瀬名は心が温かくなるのを感じた。
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