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「――って、何でお姉ちゃん相手にこんなシリアスしてんの!!恥ずいっ!!
もう行くね!じゃっ」
羞恥心が頂点に達したのか、沙那は素早く背を向ける。
下ろしたばかりの通勤バッグを肩にかけ直し、バタバタと部屋から立ち去った。
「いってらっしゃーい…って、あれ、着替えてないし…」
見送る瀬名の声は届いていなかったらしく、職場用の制服を着用したまま沙那は玄関をあとにした。
(…沙那、色々考えてるんだな…)
まだまだ幼いと思っていた妹の成長が微笑ましい。
ちょくちょくたしなめられたり世話を焼いてくれたりするけれども、やはり感覚としては絶対的に『妹』で。
物心ついた時から一緒だった彼女に対する、幼いという概念を払拭すべきだと瀬名は思う。
(男嫌い、治ったのかな…?)
彼女の男嫌いは最近になって始まったものではない。
青春を謳歌する筈の高校生時代には既に心底毛嫌いしていた。
それは男性を前に緊張して話せないといった可愛い類いではなく、男性という性別の存在自体を認めないものだ。
男なんか滅べばいい、と何度周囲が聞いた事か。
その度に瀬名は、同調するわけでも否定するわけでもなく、ただ荒ぶる沙那の感情を静めようと話を逸らしていた。
彼女が男嫌いとなってしまった原因を知っているだけに。
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