桜とスーツと携帯電話。

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つい昨日までそんな態度だった沙那が、今からプライベートで男性に会おうとしている。 自分の才能を認めてくれた人物に。 相手に説得されたのか、或いは、『男は嫌い』だからと意地を張っていては、折角のチャンスを自ら手放してしまう事になるからか。 はたまた、彼女の心を揺さぶる出来事があったのか…。 身内だけれど別の人間である瀬名に、彼女が話さない以上はその訳を図り知る事は出来ない。 だが、彼女の心に変化が訪れているのは事実だ。 (会いたいと思う気持ちに素直に―――か…) 先程の沙那の言葉を、瀬名は思い出す。 振り返れば、小さな挑戦の前には決まって深く考えていた。 人はそれを慎重だと言うのだろう。 勿論それは、事前に危険を回避したり無駄な手間を省く為に必要な事でもある。 しかし必要以上に考えすぎた結果、戸惑いに支配され、諦める形で終わらせていなかっただろうか。 自分の欲を抑え込んではいなかっただろうか。 (素直に、素直に…) 本当は一番に何をしたいのか、自分自身に正直になれば自然と答えに辿り着く。 つまらない意地や見栄など張らずに。 自分の気持ちを偽る仮面など被らずに。 連絡など、今取る必要は無いのかもしれない。 彼は仕事でも関係のある間柄だと判明したのだから、今後も付き合いは大いに考えられるだろう。 それなのに、個人的に会いたいと願うのは欲張りだろうか。
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