桜とスーツと携帯電話。

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(―――でも。 欲張りでもいい。 素直になった自分が出した答えに偽りたくないから。 もっと彼に近付きたい。 彼に会って、彼の事をもっと知りたい。 それが、素直な私の答え…!) 今すぐ会いたい、声が聞きたい―――そんな思いに駆られる。 昼間に会ったばかりにも関わらず。 これからだって必ずや顔を合わせる機会はあるというのに。 だがどうしようもなく込み上げる、彼を求める感情は何処から湧いてくるのだろうか。 水を欲する、真夏の渇いた体の様に。 それこそ、抑え込む事は不可能なストレートな欲求ではないか。 (電話しようとしてるのは彼に言われたからじゃない。 確かにきっかけはそうだったけど。 …これは、私の意思だ) 誰だって戸惑い、躊躇い、悩むものだ。 自分の意思は何処に向いているのか分からなくなる事はある。 だけどいつまでも考え込んで一歩も踏み出せないままでいたら、きっと後悔するだろう。 「……よしっ!」 改めて意を決したかの様に、瀬名は気を取り直す。 中断されていた水上への連絡を再開しようと、携帯の在処を探した。 (…あ、確かリビングで打ってて、沙那が来たから後ろに隠したんだっけ…) 記憶を辿り自分が居た場所を探す。 だがそこにある筈の探し物は、床の上にもテーブルの上にも存在しない。 辺りを見渡すものの、それらしき物は一切見当たらない。 「……え、うそ、あれ…?携帯どこ…?」
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