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赤信号の横断歩道に差し掛かり、忙しかった瀬名の足取りが緩やかになる。
はぁはぁ、と荒い呼吸を整えながら疲労を訴える体をしばらく休めた。
(…そういえば、この間も公園に行く時走ってたっけ。
何だか最近走ってばっかりだなぁ)
あまり運動は得意ではない方だが、ひょっとして高校の体育の時間に測ったマラソンのタイムよりも、今のが良い記録を出してるんじゃないかと呑気な事も考えてみる。
(っていうか、自転車使えば良かった…!!)
気が急いていたお陰か、自転車という移動手段をすっかり忘れてしまっていた。
土曜日はお酒を飲む事を想定して、自転車でも飲酒運転になってしまうからと使用を控えていた瀬名。
今回は自転車で行けない理由など特別無いというのに。
気が付けば、自宅から公園までの四分の三くらいの地点まで進んでいる。
今更取りに引き返すのも何だか気が引けるし、と青信号を確認した瀬名は再び走り始めた。
「やっぱりあった…!!」
公園の駐車場に着いた瀬名は、予想通り脇に設置されていた公衆電話のボックスに安堵する。
スモークの入ったガラス張りの中には誰もいない。
近付いて扉に手を掛けると、それは久し振りの開閉を喜ぶかの様にキィと音を鳴らした。
(わ、何かドキドキしてきた…。
あれっ、どうやってかけるんだっけ?
お金入れて…あ、先に受話器?)
人が一人入るのが精一杯の窮屈な箱の中で、わたわたと使用手順に慌てふためく瀬名の姿は、傍から見れば滑稽だったに違いない。
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