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瀬名の心臓が、ドキリと波を打つ。
受話器越しのややくぐもった低い声は、公衆電話からの着信に不信がる様子が窺えた。
(水上さん、だよね…?何か喋らなきゃ…!)
だが緊張も相まって、絞り出されたのはしどろもどろなか細い声。
「…あ、あの…えっと、き、北川です…」
『―――!
北川…って、えっ、本当に!?』
「…ハイ」
驚いた声色の相手は、確かに水上だとはっきり分かる。
彼へと繋がった安心感と喜びが、瀬名の心いっぱいに広がった。
同時に、昼間に会ったばかりの彼にこうして公衆電話から連絡をしている事に照れ臭さも感じていた。
『何で公衆電話なの?』
「…あっ、携帯見つからなくて。家のどこかにはあると思うんですけど…」
『なるほど。で、今どこから?』
「公園にいます。名前は何だっけ…えぇと、池があって桜が咲いてる…」
つい一昨日に花見をしたばかりなのに、度忘れしてしまい公園の名が出てこない。
『…桃染(ももぞめ)公園?』
「あっ!!そうです!!そこにいます」
『今から行くよ』
「え…?」
―――プッ、ツー、ツー、ツー…
受話器を押し当てていた瀬名の耳に響き続ける、無機質な機械音。
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