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「切れちゃった…」
誰にも届くことのない呟きを、瀬名はポツリと吐く。
耳元で鳴り止まない『ツー』という機械音は、水上への電話が途絶えた事を認識させた。
財布から持ってきた、唯一通話に使える十円玉二枚をあっという間に使いきってしまった。
(公衆電話から携帯にかけるのって、結構お金かかるんだな…。
…じゃなくて!
み、水上さん、今から行くって言ってなかった?!)
かろうじて居場所を告げる事は出来たが、敷地が広すぎるこの公園。
お花見スポットとしても有名なここは、一昨日訪れた桜木が立ち並ぶ池エリアをはじめ、芝生エリアや遊具エリア、体育館までも併設されている。
この広大な敷地では、ただ『公園にいる』と伝えただけでは到底巡り会える気がしない。
公園内に設置されている数少ない公衆電話が、たった一つの目印だ。
(下手にここから動かない方がいいよね…?
と、とりあえず…待ってみよ)
瀬名は電話ボックスから出ると、近くにあった花壇のブロックに腰を下ろした。
(水上さん、来てくれるんだ…)
今から行く、と言ってくれた彼の言葉。
先程は驚きの方が先立ってしまっていたが、今改めて思い出し、喜びが全身を駆け巡る。
ただ一人の男性を、ただ一人で待つ。
それだけの事が、こんなにも嬉しいなんて。
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