桜とスーツと携帯電話。

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「少し歩こうか」 水上の提案に了承した瀬名が彼と共に辿り着いたのは、公園内にある池の前の東屋だった。 夕暮れの中、池の周囲にはぼんぼりが灯り、ライトアップされた桜木が妖艶な雰囲気を醸し出している。 はっきりと見覚えのある景色に無意識に声が漏れた。 「ここ…」 「ひょっとして来た事ある?」 「ハイ。一昨日、会社の皆で」 思わず正直に答えてしまった瀬名に、水上は苦笑すると「先を越されたな」と小さく呟く。 東屋の椅子に先に腰掛け、彼女に向かって手招きをした。 「…あ、じゃあ失礼します」 いそいそと横に座る彼女の様子に水上はクスリと笑う。 これ、と水上のジャケットの両側のポケットからは、缶飲料が合わせて二つ取り出された。 「俺のはこっちね」 片方の缶コーヒーを自分に、瀬名の前にはもう片方のミルクティーを差し出す。 春の風にすっかり冷たくなっていた瀬名の手を、水上から受け取ったホット仕様の缶容器がカイロのように温めていく。 「あったかい…」 「結構待たせちゃったから、寒かったでしょ。好きだよね、それ」 真隣で目配せをする水上に、瀬名の心臓がドキリと高鳴る。 自分の好きな物を覚えてくれていた事、それを用意してくれていた彼の気遣いに胸を熱くせずにいられない。
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