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「携帯、なくしちゃったんだ…?」
暫し沈黙の後の、水上からの問い掛け。
水上は缶コーヒーを一口流し込むと、前屈みに瀬名の顔をじっと見つめた。
ドキン、と瀬名は自分自身の大きな鼓動を再び感じる。
彼からの視線には気付くものの、緊張して俯いた姿勢から抜け出せない。
「はい、探しても見つからないし、家に電話もなくて……っクシュン、あ、すみません」
不意に訪れたくしゃみに平謝りの瀬名。
「そうか」
水上は一言終えると、缶コーヒー等を出してすっかり軽くなったジャケットを脱ぎ始める。
直後、瀬名はあたたかな温もりに包まれた。
(―――え…?)
先程まで水上が羽織っていたジャケットが、自分の肩から掛けられた事に驚く。
それは冷たくなった彼女の上半身を、ジャケットの持ち主である水上の体温を残したまま優しく包み込んだ。
「水上さんが寒くなっちゃいますよ!カッターシャツ一枚じゃ…」
慌てて返そうとするも、彼女の行動を水上は制す。
「いいよ、俺は男だから」
「でも…っ」
「いいから。風邪引かれたら困るし。
それとも、俺のスーツなんて嫌…?」
「い、嫌じゃ…ないです…けど…」
答えは分かりきっているくせに、わざと意地悪く悲しそうな素振りを見せる水上に、瀬名は後に続く言葉を見つけられない。
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