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「そ、うですね」
相槌を打ちながら、何で簡単にこの人は…と瀬名は思う。
隣に座る彼は、鼓動を速めるのも頬を紅潮させるのもいとも容易くて。
「字、消えかけてるよ。書き直してあげようか?」
いつの間にか、右手をとられての提案をされる。
「…大丈夫ですっ、紙にメモとりましたから…っ!」
「あはは、そっか。デジタルな仕事してるのに、そこはアナログなんだね」
言って彼女の手を解放した。
(…まただ)
きっと自分の顔はもっと赤くなっているに違いない。
夕暮れが上手くごまかしてくれるだろうか。
それにもう、何度不意打ちを食らった気分になっただろう。
相変わらず、本気なのか冗談なのか見当のつかない仕種を向けてきて。
そのさらりとした言動はまるで―――。
「…水上さんって、ホストみたいです…」
「ん?それは誉め言葉?」
「…えっ、いや、変な意味はなくて!
あの、ウチの社長がそんな感じだから似てるなーって…」
心の中で呟いたつもりが声に出していたようで、瀬名は慌てて弁解する。
だがそれも彼を納得させるには程遠く、寧ろ更なる疑問符を浮かばせてしまった。
「…うーん、保志沢さんの事だよね?今日の昼前に会ったけど、似てる…?自分じゃ分かんないな」
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