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瀬名を連れ駐車場へと戻った水上は、自分が乗ってきた車へ彼女を招いた。
「いいよ、乗って」
ノートパソコンや書類を後部座席へと片し助手席側を促す。
銀のボディに革張りのシートが映えるクラウン。
あまり車関係には詳しくない瀬名だが、上質そうな随所の素材に、高そうな車だな…と頭の片隅で思う。
「えと、じゃあ失礼します」
「どうぞ」
おずおずと助手席に座る瀬名の様子に、水上は微笑みながら答えた。
「―――あ、ここ右です」
「知ってるよ」
走り出した車は自然と瀬名の自宅方面へと向かっていた。
訊かずとも、彼女の自宅をつい先日訪問したばかりの水上にとっては容易い事だ。
「そういえばそうでした…」
「まぁ、もともとこの辺りには詳しいんだ。営業で随分回ったのもあるし」
やがて車は、交差点の赤信号に差し掛かり減速する。
「あのさ…」
―――ぐぅ…
振り向き様何かを言いかけた水上の声に被せて、静かな車内に低音が響いた。
(…う、わ…はっ、恥ずかし…!!)
音の正体は紛れもなく瀬名のお腹からで。
運転席の彼の耳にもはっきりと届いた事に気付いた瀬名は、顔を赤くして俯いた。
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