601人が本棚に入れています
本棚に追加
顔を真っ赤にして見つめる瀬名の瞳がじわりと滲む。
具体的に何が、と聞かずとも察してくれる事を願い、それ以上言葉を続けられない。
本気か、否か―――。
初めて出逢った日から常にそれは渦巻いていて。
数々の甘い仕種やささやきは、たったそれだけの疑問でいとも簡単に打ち消されてしまう。
『仕事抜きで、君と話がしたい』と言った事。
今日、再会した瞬間に自分を抱き締めた事。
握った手、掛けてくれたスーツのジャケット、それから…。
水上は彼女の頭をポンと優しく撫でる。
「言ったよ。一目惚れだって」
―――その言葉も本気ですか?
本心はそう尋ねたい瀬名だったが、
「…送って下さってありがとうございました」
話題を逸らすかの様に礼を述べるとシートベルトを外す。
「お仕事頑張って下さい。それじゃ、また」
「…あぁ、また近いうちに」
どこかぎこちなさが漂う会話を交わして、瀬名はそっと車を降りた。
最初のコメントを投稿しよう!