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(うーん、何か泥棒してるみたい…)
男性のジャケットを探るなど機会の無かった瀬名は、緊張感半分、罪悪感半分といったところである。
外側のポケットに一通り目を通してみるが、財布や鍵といった貴重品や、重要らしき物は何も入っていない。
ひとまず安堵すると共に、どう連絡したらよいものかと頭を捻った。
(そろそろ私に着せたままだって気付いたかな…)
今はおそらく会社へ向かっている頃だろう。
途中で気付き引き返してくれるだろうか。
とりあえずハンガーに掛けようとジャケットを抱える。
と、手の平に感じる硬質の感触。
内側の胸ポケットを探ると金属製のケースが現れた。
取り出した中には、全て同じ文面の名刺が数十枚。
(水上さんの名前だ。普段仕事で渡してるのだよね)
名刺入れなら緊急性はなさそうだし、明日でも間に合いそうな気がする。
そういえば…と瀬名は、以前彼から受け取った名刺を粉々にしてしまった事を思い出す。
機会があったら正直に話してまた貰おう、と思っていたが今日はすっかり伝えそびれていた。
(一枚くらいならいいかな。ジャケット返す時にきちんと言おう)
銀色のケースから名刺を一枚抜き取る。
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