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その時、ぐうぅ…と瀬名のお腹が再び空腹を訴えた。
(沙那が帰宅したら、携帯借りて水上さんに連絡しよう。
その前に何か食べなくちゃ)
瀬名は最初に寝室に向かうと、ベッド横のパソコンのディスプレイの隅に、拝借した名刺をテープで貼った。
水上のジャケットは、しわにならないようクローゼット内のハンガーに掛けておく。
それからキッチンへ向かい、昨晩作りすぎて冷蔵庫に入れおいた野菜炒めに冷凍うどんを合わせ、即席の焼きうどんを完成させる。
リビングに運び、独りテーブルで麺をすする。
やはり浮かぶのは、どうしたって水上の姿だ。
昼休憩の時も含めて、今日は二回も彼に会えた。
しかも自分が勤める会社の顧客だったなんて。
身に起きた偶然が未だに信じられない。
そして夕方、公園まで来てくれた事が純粋に嬉しい。
車に乗せてもらったり、ジャケットを掛けてくれたりと、縮まった彼との距離をまた思い出さずにはいられない。
…心臓に悪いくらいに、酷くドキドキしたけれど。
―――ガチャ
「ただいまっ!!」
施錠しておいた玄関扉が開かれると同時に、荒々しい声がリビングまで届いた。
沙那の帰宅だ。が、様子がいつもと違う。
乱暴に靴を脱ぎ捨て、ドシドシと足音を立てて瀬名のいるリビングまでやって来る。
ぶぅっと顔を膨らまし、壁の隅を目掛け手持ちのバッグを勢いよく投げ付けた。
「…お、おかえり。…何かあったの…?」
明らかに不機嫌なオーラを纏う妹に、瀬名は箸を置きながら恐る恐る尋ねる。
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