桜とスーツと携帯電話。

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床に散らばった紙屑にまみれる、ずっと探していた白い光沢のフォルム。 「携帯!!何でこんな所に…!!」 今度は瀬名が声を上げる番だ。 携帯を拾い上げ二つ折りの本体を開けば、水上の携帯番号が入力されたままの画面になっている。 幸いにもゴミは乾いた物ばかりで、携帯の画面や操作に支障は無さそうだ。 (これで水上さんに連絡出来る…!) 「え、お姉ちゃん、何で携帯捨ててんの」 「わざと捨てたんじゃないってば。でも本当に、いつの間にここに落としちゃったんだろ…」 まぁ、見つかったからいいか、と瀬名は携帯をリビングのテーブル上に置いた。 そして転がったゴミ箱を起こすと、今度は蹴ってしまった張本人である沙那が、バツが悪そうに中身を元に戻した。 「…ねぇ、沙那」 片付け終わるや否や、リビングを出ようとする妹の背中に瀬名は話し掛ける。 振り向かないままの沙那は「何?」とぶっきらぼうだ。 「あのさ、その…男の人ってそんなに悪い人ばっかりじゃないと思うんだ」 「………」 「…ほら、沙那や私の職場にだって、いい人はいるでしょ?だからやみくもに…」 「―――お姉ちゃん、あの人の事忘れたの!?」 沙那は振り向き、キッと瀬名を睨み叫ぶ。 姉妹二人が知る、決して忘れる事のない『あの出来事』。 「忘れた訳じゃないよ、ただ…」 「いい人なんて、結局表面上なだけじゃん! あの人は、好意のあるふりして平気で裏切った…それに…」
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