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車内から外を伺うも辺りはほぼ黒一色で、瀬名はここが何処なのか想像がつかないでいた。
緊張のあまり流れる景色には目もくれず、自分の足元と隣の彼の横顔ばかり交互に見ていたせいだ。
「降りないの?」
助手席側の扉が開いたかと思うと、屈みながら自分を見下ろしている水上の姿。
僅かにたたえた笑みと、首元の緩んだネクタイ、そして第一ボタンのほどかれたカッターシャツが瀬名の目に映った。
「ここは…?」
「駅前だよ。ドライブだけにしようかと思ったけど予定変更」
開けられたドアは降車を促されている様で、瀬名はおずおずと座席から足を下ろした。
(駅前?)
それにしては明かりが少なすぎる、と瀬名は思う。
どこの駅なのかも分からないし、ロータリーすら見当たらない。
「おいで」
水上は身を翻して歩き出す。瀬名は彼の背中を追った。
アスファルトの敷かれた平たい地面が二人の足音を鳴らせる。
(―――『駅前の飲み屋にしね?』
『ばっか、お前ラブホの目の前じゃねーか』)
瀬名の脳裏を過ったのは、
先週の土曜日、公園でナンパをしてきたガラの悪そうな見知らぬ高校生の台詞。
何故か二人の会話を思い出す。
とうに忘れていたのに。
(…いやいやっ、駅前って、まさか…そんな…そんな事は…)
端的にしか説明してくれない彼に対して、少しだけ不安を覚える。
水上の背後で、瀬名はうるさすぎる程の鼓動を感じながら力強く首を振った。
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