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車はちょうど赤信号に差し掛かり、水上は助手席に座る瀬名の顔を覗き込んだ。
「ひょっとして、その事気にしてた?」
「…すみません。
何か聞いちゃいけない事聞いちゃったような気がしてて…」
んー、と少しの間を置いて、水上は軽く首を傾げる。
「聞いちゃいけない訳じゃないよ。
…ただ、なるべく言わないように癖にしてるというか、
それを言った途端に色眼鏡で見られる事があるから、敢えて自分からは言わないでいるというか…」
あぁ、そういえば―――。
瀬名は津田の言葉を思い出す。
“普通社長の息子っていったら、それなりの立場に就いたりするものだよね。
でも水上は、いわゆる七光りを嫌っててさー。
実力で勝負したいからってヒラからスタートしてるんだよ”
それは想像に難い、弛まない努力の日々であったろう。
周囲の反発ややっかみ、伴う壁もきっと多かったに違いない。
だがそれを堅実に乗り越えている事は、水上の名刺に記された『営業課 主任』の文字が如実に表していた。
「まぁ、色眼鏡で見られてしまうのは仕方ないんだけどね。見るなというのが無理な話だし。
でもわざわざ自分から主張する事じゃないかなって」
「そうだったんですか…」
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