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「私、記憶のあるうちに行った事ないです。
何か身の丈に合わないなぁって感じで…」
「あぁ、フランス料理店って高級感醸し出してる店多いからね。
最近はそうじゃない店もあるけど、子連れ禁止だとか、マナー云々だとか他ジャンルに比べて堅苦しさがあるし。
それに生クリームやバターを使ったメニューが多くて単価がどうしても高いから、入りにくいのは仕方ないと思うよ」
瀬名の育った家は決して貧しくはなかったが母子家庭であったし、今は妹と二人暮らしで自炊が多い。
ましてや未だ成人したばかりの彼女に、外食でフレンチを味わう機会が無かったのも無理はない。
「あ、どうして料理は辞められちゃったんですか?」
純粋な疑問だった。
瀬名からすれば、料理人という世界はぼんやりとしているものの憧れを抱いてしまう職業だ。
でもきっと気軽になれるようなものじゃない。
よくは知らないけれど、厳しくて、好きでなくてはおそらく選ばないであろう道。
念願だった筈の職を捨て営業マンとなった経緯が、彼女には単純に不思議でならなかったのだ。
「………」
水上の顔が曇る。
津田から『料理を辞めてイズミ建設に入社した』とは聞いたが、そこに理由は添えられていなかった。
ただ不思議に思っただけで、深い意図も無く尋ねただけだったのだが。
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