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―――コンコン
運転席側の窓を叩く音が小さく鳴った。
それに気付いた水上が目を開くと、窓の向こうには、腰を屈めて申し訳なさそうな顔をする瀬名の姿。
水上は慌てて起き上がり、運転席のドアを開けた。
「寝ちゃったのかなって思いました」
「いや、それは…」
体を休めていたのには変わりないから半分正解でもあるか、と水上は言葉を引っ込める。
「あの、これ…ありがとうございました」
そう言ってはにかむ瀬名が大事そうに抱えていたのは、男物のジャケット。
先日の公園の帰り際、風邪を引くからと水上が羽織らせ預け放しになっていたものだ。
水上は、彼女の手から丁寧に渡されたそれを受け取り笑みを浮かべた。
「どういたしまして」
「あ、名刺ケースはポケットに入ってます」
(…そういえば言っておかなきゃ)
最初に受け取った名刺を失くしてしまった事、
その代わりにケースから名刺を一枚拝借した事を詫びようと、瀬名は口を開く。
「あの…」
「きちんと預かっててくれてありがとう。
良い匂いがするね。芳香剤?」
「あ、えと、クローゼットに掛けておいたんで防虫剤のせいかもしれません」
「ふぅん」
と、瀬名の視界が突然素早く揺れた。
水上が車から降りたと思いきや、立ち上がると同時に彼女の体を引き寄せたからだ。
「ホント、同じだ」
「………っ!」
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