393人が本棚に入れています
本棚に追加
瀬名より頭一つ分は優に高い水上は、体を少し屈めて彼女の背に両腕を回していた。
そして彼女の首筋に顔を埋めると
「このカーディガンと同じだ」
低い声で、そう囁く。
言葉に従って動いた唇は、触れるか触れないか微妙な感触を首筋に残す。
それはまるで、キスを落とされている錯覚を起こしてしまいそうな程に
そっと、柔らかく―――。
「み…水上さ……」
「ん?」
わざとらしく惚ける水上は、まだ瀬名の体を包んだまま頭を垂らしている。
(…こっ、これ、前とおんなじ…っ)
彼と二度目に出会った時だ。
事務所の前で偶然再会した際、真っ昼間の路上にも関わらず堂々と抱き締められた。
今は昼間ではないからOKなのかと問われれば、それはそれで答えに窮してしまうけれど。
あの時と同様に、突然回された腕の中は視界が暗く、シャツ越しに感じる彼の僅かな温もりがくすぐったい。
―――バクバクバクバク…
激しく打ち続ける鼓動も同様に、いや、それ以上かもしれない。
早鐘の如くしきりに高鳴る心臓と、行き場を失いぶらんと下ろされた自分の腕をどうする事も出来ないまま、
ひたすらに身を固くする瀬名。
最初のコメントを投稿しよう!