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「考えておいてね」
水上が囁いた。
具体的に示されずとも、彼の告白に対する答えの事だと瀬名はすぐに勘づく。
『彼氏として付き合えるかどうか考えておいてね』そういう意味なのだと。
けれど抱き締められたままの瀬名には上手く切り返す余裕など無い。
背後に回された腕と、自分を受け止める広い胸板。
伝わる心音と、頬を掠めるしなやかな髪。
そして言葉と共に吐かれた彼の息がかかるうなじと、意識はあちらこちらへと移ってしまう。
「…か…んがえさせて、頂きます…」
全身が熱を帯び思考の働かない瀬名は、自身の喉からそう振り絞るのが精一杯だった。
「うん、それじゃ」
水上は瀬名の背に回していた腕をほどき、伏せていた顔をゆっくりと上げた。
密着させていた体を彼女から離し車のドアノブに手を掛ける。
「今日は美味しいご飯をありがとうございました。お気をつけて」
「あぁ、また。おやすみ」
「…おやすみなさい」
「………」
「…………」
水上は車のドアを開けるも運転席の真横に立ち続けたままだ。
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