恋する気持ちが知りたくて。

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一方瀬名は、久し振りに交わした涼との会話にどこか安心したように相槌を打つ。 「そうなんですね。仕事決まったら教えて下さい。 クラッカーとても美味しかったんで、お店には個人的にも行ってみようと思います」 瀬名はふわりと笑みを浮かべて、自分のデスクへ戻るべく背を向けた。 (……人の気も知らないで) そんな無防備な笑顔で―――。 振り返り様、もう一度瀬名の長い髪が揺れた。 ふいに涼の胸に疼いたのは、立ち去っていく彼女の小さな体を手元に寄せたい衝動。 細い腕を引くのは簡単な事だけれど。 ここは職場だ、引いたところでどうする気だ、ともう一人の自分のお陰で理性を保つ。 事務所でなければ、いや、人目がなければ事務所だとしてもそうしてしまったかもしれない。 僅か数分の休憩を経て、午後の仕事は静かに開始される。 最も、涼はとても体を休めた気にはなれなかったが。 クライアントとのアポを取り、資料を作り、慣れぬWeb用語で頭の中を埋め尽くす。 仕事に不必要な感情の排除を目的として。 行くあてを失った自分に居場所を与えてくれた保志沢の恩に報いなければと、閉じ込めた彼女への想いが溢れてしまわないように。 懸命に、蓋をする。 だがその固いはずの誓いが、ふとしたきっかけでまるで障子紙のようにいとも容易く破られてしまう事を、今の涼は知る由も無い。
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