約束の日。

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伏せていた体をゆっくりと起こせば、床に放り投げたままのトートバッグが視界に入る。 中身を開く気にはまだなれない。 いつもなら帰宅してすぐに目を通して、気に入った本はその日のうちに読み返したりもするのだが。 マンガもアニメもゲームも好きで、そして同人という世界が好きで。 それらは自身を形成してきたかけがえのない存在だ。 だが今は、数時間前の楽しかった時間がもう何日も前の思い出のような、いや、別次元の出来事のようにさえ感じている。 水上を想うのも、大好きな趣味があるのもどちらも偽りない自分なのに。 両方がせめぎ合って苦しくて堪らない。 もし彼にイエスの答えを出すとするなら趣味を捨て、もし趣味を優先させたいなら彼にはノーを告げるべきなのだろうか。 (…いつになったら抜け出せるの……) “あの日”から終わらないスパイラル。 オタクな側面を見せては嫌われてしまうのではないかと、いつまで経ってもその恐怖から逃れられない。 彼も同じ反応をするとは限らないが、どうしたって最悪のパターンを想像してしまう。 “自信持って。大丈夫だから” ―――エールを送ってくれたあやのの声が脳裏をかすめる。 (……だめ…私、まだ自信持てそうにない……) 静まり返ったリビングに漏れるのは上の階の住人による微かな物音と、深い溜め息。 行き場のない胸をかきむしるような思いを抱え、刻々と過ぎ行く春の夜の短さを感じていた。
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