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ソファーに突っ伏したまま目を閉じれば、僅か十数秒間の出来事が、コマ送りされたムービーのように瞼に蘇る。
群衆の中見つけた、自分ではない女性に笑い掛けていた彼の姿。
(……どうしてこんなに悲しいんだろう…)
彼が女性と二人きりで歩いていたから?
仕事だと言っていたのに?
(でも、本当に仕事だったのかもしれないし…)
今まで見た限りと同じようにスーツを纏う水上、そして隣の女性もフォーマルな格好であったから、二人は仕事上の間柄でしかないのかもしれない。
そうであってほしいと願う。
だけど。
(……私、凄く自分勝手だ…)
彼に告白の答えを出してないのに、勝手にショックを受けて、疑って。
先日だってそうだ。
津田に関係を訊かれ、彼が咄嗟に返した『仕事上の知り合い』という言葉が心に引っ掛かった。
訂正する必要など無いのに。
ましてや落ち込む資格なんて無いはずなのに。
「………っ」
自己嫌悪から、意志ではないのにじわりと滲んだ水膜を左手で拭う。
ふと思い浮かぶのは、職場の隣のファミレスで彼に携帯番号を手の甲に書かれた出来事。
水性ペンで記された文字は既に跡形もなく消えてしまったけれど。
手の甲の、彼の文字が書かれていたであろう箇所が拭った涙で濡れる。
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