ふたりきりの夜。

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「…付き合っては?」 “付き合ってないというのなら、何故あの日あの場所で君達は抱き合っていたの?” その疑問をぶつけるように、涼は語尾を強調して彼女の台詞を繰り返した。 いつだったか、会社にかかってきた水上からの瀬名宛の電話。 気恥ずかしそうに頬を染めて、受話器をあてた小さな口からは笑みが零れていて。 遥か受話器の向こう側の人へ寄せる想いを、目の当たりにしたような気分だった。 例え今“付き合っては”いなくとも、その状態を迎えるのはこのままでは時間の問題だと、邪推せずにはいられない。 「意地悪な質問してゴメン。 でも、まだ付き合ってないんだったら、僕が入り込む余地はあると思っていいのかな」 思えば、初めて会った時から彼女に惹かれていたのに。 募る想いを無理矢理閉じ込めようとしたばかりに出遅れてしまった。 でも、もう蓋なんていらないから。 圧力をかけ続けていた反動か、枯渇を知らない泉の流れを止める事はもう不可能だから。 「いい男になってみせる。だから、見ててほしい」 水上よりも、誰よりも。 その闘志を宿した真っ直ぐな瞳に、複雑な表情を浮かべて見上げる瀬名が映った。
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