やがていつかは告げること。

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五月、ゴールデンウィーク明けの最初の土曜日。 新緑を揺らす爽やかな風は止み、次第に汗ばむ陽気となった昼下がりに、 瀬名は水上と共に、愛知県内でも有数の名門校A大学内を歩いていた。 日常では全く無縁の場所であるが、今日は水上が受ける『マンション管理士試験』の受験日。 早めに訪れた受験会場である大学を、二人で散策しているところだった。 「スゴい!広い!大きい!長い!」 三月に卒業したばかりの専門学校では存在しなかった、校門やグラウンド、煉瓦の歩道やベンチのある芝生といった、目に映るもののほとんどに歓喜に沸く瀬名。 水上に久しぶりに会えた喜びも手伝ってか、これほど感情を露呈する彼女は珍しい。 まるで兎が跳ねるように、黄色い声を上げていたかと思えば、ふと目を輝かせながら水上を見上げる。 (何だか、変な感じ…。水上さんとキャンパス歩いてるなんて…) それも、彼の真隣を。 瀬名が歩く舗装された通路の両側には、講堂や各教室が納められた大きな校舎が建ち並ぶ。 そのお陰で、あたかも自分が大学生の一員になってしまったかのような錯覚すら覚える。 (うん、年齢的にはピッタリだし。 水上さんは例えるなら、浪人生じゃちょっと…だから、先生ってとこかなぁ) ひとりで度々頷き、嬉しそうに隣を歩く瀬名に、水上は笑いを押し殺しながら彼女に尋ねた。
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