それを忌むワケは。

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恐れが完全に消え去った訳ではないが、多少なり和らぎ、心の安定がはかれているのは。 慣れか、それとも安堵からか。 もし後者だとするならば、畏怖にも勝る安心感を与えてくれる存在は何なのだろうか。 自分の頭を預けた、彼の背中。 彼の腰にまわした、自分の腕。 無論こうしていなければ命の保証など無く、必要に迫られた末の行動なのだけれど。 交わす言葉もないのに、密着する体の一部から“大丈夫”という信号を送られているようだ。 (……ん? 何、人の背中で安心しちゃってんの私。おかしくない?) しかも相手は星也だ。 願わくば、この腕を離せるなら今すぐにでも振りほどきたい、そのハズなのに。 細身のくせに、案外逞しい背中だとか。 自分が寒くなるのも構わず、脱いだ革ジャンを貸してくれる意外な優しさだとか。 さっきから、彼の印象にプラスポイントが加算されていくのは何故だろう。 もともとが大きなマイナスなのだから、結果プラスには転じちゃいないけれど。 (違う。これは、そうだ、つり橋効果ってやつだ、うん) エンジン音をBGMに風を切る初めての経験に、恐怖と緊張で脳が過剰に反応してるだけなんだ。 (……男だ、この人は男…信用しちゃいけない)
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