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「ま、一緒に住んでりゃ気に入らない事の一つや二つ…」
「ありませんっ。お姉ちゃんとはいたって順風満帆です」
ふいと顔を逸らし、平静を装って丁寧な口調で返す沙那。
しかしその態度は、かえって『気に入らない事』という保志沢の言葉に対する肯定そのものである。
「そう?ならいいけど」
「……」
「じゃ、気を付けて帰ってね。女の子があんまり遅い時間に外出歩いちゃダメだよ。
また打ち合わせしたいからさ、近いうちに会おうね」
「オヤスミ」と最後に告げて、手を振る保志沢の姿が遠退く。
彼は社用車に乗ってきたようで、駐車場の隅に停められた白のGOLFに近付き乗り込んだ。
呆気なく訪れた保志沢との別れに、沙那は戸惑う暇もない。
期待通りの時間稼ぎにならなかった上に、突然一人取り残されて、沙那の心は妙な孤独感に苛まれた。
(これから…どうしよう…)
先程保志沢と共に目立ってしまったせいで、もう一度コンビニに入るのは気が引ける。
とはいえ、その場を去ろうにもすぐには目的地が思い浮かばない。
大きな溜め息を吐き出して、沙那は暫し俯いた。
と、数歩離れた地面に転がるコーヒーの空き缶が目に付く。
(もうっ、誰よ!ちゃんと捨ててよねっ!)
空き缶を拾い上げ、コンビニの出入口に備え付けられた缶用のゴミ箱に投げ入れる。
自分の胸に広がる黒く混沌とした感情も、ゴミを捨てるみたいに、簡単に仕分けして破棄出来たらいいのに。
そんな思いが沸いて、彼女の足はゴミ箱の前で留まっていた。
「―――帰らないの?」
ふいに落とされた頭上からの声に、沙那はハッとして顔を上げた。
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