それを忌むワケは。

11/25
前へ
/25ページ
次へ
*** 行き交う自動車の走行音に混じって、異質な排気音が低く響いた。 音源は、コンビニの駐車場に滑り込んだ、一台の黒色の中型バイク。 やがてエンジン音が鳴り止むと、首まで覆った革ジャンにデニムパンツを纏った、フルフェイスヘルメットの男性がバイクを降りた。 保志沢は当然のように男性に近寄る。 「悪いね。わざわざ来てもらって」 「お前ちっとも悪いって思ってないだろ」 革の手袋に包まれた手でヘルメットが外され、男性の顔が露わとなった。 「いやいや、星也なら絶対来てくれるって信じてたよ。さすが心の友よ」 「ジャイアンか。俺がのび太役はごめんだぞ」 呆れた声を出した星也は、駐車場の隅に停まる社用車を一瞥すると、再び視線を保志沢に戻した。 「…で。問題児は車にいるのか?」 「そ。待っててもらってる」 星也が指した“問題児”こと沙那の姿は、社用車の中にあるようだ。 周囲の闇と後部座席のスモークガラスの効果で、彼らの位置からその姿は確認出来ないが、車内で待機しているのは確実らしい。 「ほっとけばいいものを…」 「ほっとけないよ。家に帰りたくないって言ってる知り合いをスルー出来るほど、俺は冷酷になれない。 未成年だし、補導されるかもしれないし、最悪事件に巻き込まれたらどうするんだよ」 「それはもっともな意見だが。 相変わらず相手に勘違いさせそうなほど優しいな、お前は」 星也は腕を組み、眼鏡の奥の鋭い眼差しを保志沢に送った。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

461人が本棚に入れています
本棚に追加