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行き交う自動車の走行音に混じって、異質な排気音が低く響いた。
音源は、コンビニの駐車場に滑り込んだ、一台の黒色の中型バイク。
やがてエンジン音が鳴り止むと、首まで覆った革ジャンにデニムパンツを纏った、フルフェイスヘルメットの男性がバイクを降りた。
保志沢は当然のように男性に近寄る。
「悪いね。わざわざ来てもらって」
「お前ちっとも悪いって思ってないだろ」
革の手袋に包まれた手でヘルメットが外され、男性の顔が露わとなった。
「いやいや、星也なら絶対来てくれるって信じてたよ。さすが心の友よ」
「ジャイアンか。俺がのび太役はごめんだぞ」
呆れた声を出した星也は、駐車場の隅に停まる社用車を一瞥すると、再び視線を保志沢に戻した。
「…で。問題児は車にいるのか?」
「そ。待っててもらってる」
星也が指した“問題児”こと沙那の姿は、社用車の中にあるようだ。
周囲の闇と後部座席のスモークガラスの効果で、彼らの位置からその姿は確認出来ないが、車内で待機しているのは確実らしい。
「ほっとけばいいものを…」
「ほっとけないよ。家に帰りたくないって言ってる知り合いをスルー出来るほど、俺は冷酷になれない。
未成年だし、補導されるかもしれないし、最悪事件に巻き込まれたらどうするんだよ」
「それはもっともな意見だが。
相変わらず相手に勘違いさせそうなほど優しいな、お前は」
星也は腕を組み、眼鏡の奥の鋭い眼差しを保志沢に送った。
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