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男なんて、自分勝手で、欲ばかりで、簡単に人を欺いて。
特別な感情を持ったら最後、身の破滅だ。
信用して心をさらけ出したら“あの時”みたいに、“あの人”みたいに裏切られるんだ―――。
幾年もの間、幾度となくそう唱えて、沙那は自身に接近する男性の存在を許さずにいた。
それは職場でも然り、男性社員に食事に誘われれば必ず断り、プライベートに関する質問は明言を避けた。
無論、仕事を円滑に進める為、適切な会話は心掛けていたが結局はうわべだけ。
私生活への介入を阻む壁を作り、また自らそれを突破したいと思える人物に出会う事はなかった。
だがひと月と僅か前、彼女の前に二人の男性が現れた。
保志沢と、星也だ。
(保志沢さんは…私の才能を買ってくれた。
自信を失いかけてた私を救ってくれた)
所詮は趣味、されど趣味。
とはいえ、同人誌の制作等の創作活動は『生きがい』と称するに充分すぎるほどで。
日々の生活を潤わせ、自分を表現する手段として決して欠かせないものだった。
反面、スランプとなった時の反動は大きい。
描けない。頭の中には浮かぶのに、筆が追い付かない。
それは単なる技術不足という問題ではなく、自信の喪失や精神的な疲労といった様々な要因を孕んでいる。
そんな時に声を掛けてくれたのが保志沢だった。
『君の絵が必要だ』と、彼の言葉は消えかけた灯火を蘇らせた。
彼には感謝している。
趣味と位置付けながら、その才で作品に触れた人々を魅了し、仕事では社長というポジションもこなす、彼の溢れる才能には尊敬の念も抱いている。
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