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軽い気持ちだった。
お姉ちゃんにあんなカオさせるなんて、どんな奴なんだろ。
ただそれだけの気持ちで、でもそれが気になって気になって仕方がなかった。
入浴を終えて、マンガを片手に布団に潜っていた瀬名が寝落ちしたところで、沙那はこっそりと枕元へ忍び寄った。
枕の傍らに転がった携帯を開き、難なく操作する。
罪悪感はあったけれど。でも…。
夜の闇に包まれた寝室で、ディスプレイのバックライトに沙那の顔が青白く照らされた。
暫し見つめて、無言で二つ折りにすると、そっと元の位置へ戻す。
―――見なければ良かった。
よく言うじゃん。人の携帯覗いたってロクな発見がないって。
本当に、その通りだよ。
何で見ちゃったんだろ。馬鹿じゃないの私―――。
沙那の胸に激しく渦巻く、後悔の念。
疑惑が確信へと移り変わった瞬間、
大切なものを奪われたような喪失感と虚無感、苛立ちと悲しみが、彼女の心を容赦なく支配した。
***
瀬名からの電話があってすぐに、沙那は脱兎のごとく自宅を飛び出した。
ブラウスにベスト、紺色の膝丈スカートといかにもOLという制服姿のまま、脇目もふらず住宅街を走り抜ける。
もともと人通りの少ない、物静かな道程ではあったが。
お姉ちゃんが帰ってくるかもしれない。
そう思うと、一刻も早く自宅から遠ざかりたくて無我夢中で足が動いた。
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