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スーパーのものに比べ、少々柔く小ぶりな買い物カゴを片腕に提げて、沙那はドリンク類が陳列する棚へ向かった。
炭酸はあまり飲めないからやめておこう。
かといって、コーヒーや紅茶もちょっと違う気がする。
ん?そもそもどこで飲むんだ?
購入したところで、結局家に帰らなきゃ飲めないじゃないか。
家に居たくなくて出てきたというのに、これじゃあ本末転倒だ。
そこまで考えて、沙那は手にとっていたオレンジジュースのペットボトルを棚に戻した。
(…何か、むなしい…)
侘しさを感じながら、せめてスカートのポケットに入るくらいのお菓子でも買おうと、カゴを戻して再度商品棚に移る。
と、そこへ。
「かーのじょっ」
軽々しい口調の男性の呼び掛けが、沙那の耳に届いた。
(?! 私…?)
何の目的で話し掛けられたのだろうか。
補導員だとしてもそれが行われるには早すぎる時間帯だし、だとしてもOL姿の女性が声を掛けられる事は稀だ。
ならば、新手のナンパか?
(ていうか、今時『かーのじょ』だなんてナンパする人いる?)
どんなカオの奴か見てやろうと、沙那は仏頂面で声のした後方を振り向いた。
「なんちゃって」
そう言ってウインクを送るナンパの犯人の顔は、沙那が思ったよりも随分上の位置にあった。
「それ、制服だよね。新鮮だね」
にっこりと微笑んで見下ろす、黒ずくめのスーツに、真っ赤なネクタイをぶら下げた金髪男性。
その見知った姿に、拍子抜けした沙那の表情が和らいだ。
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