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瀬名と水上が出逢うより、半月前となる三月は中旬。
冬の寒さから解放され、年々開花を遅らせつつある桜の蕾が顔を覗かせて、暦の上では春だというのに。
その日は日本列島に突風が吹き荒れ、まるで台風が襲来したかのような騒々しさだった。
『今日は全国的に、朝から強風注意報、警報が発令されています。
特に夕方以降は春の嵐に見舞われます。外出される際は充分お気を付け下さい』
正午前のニュース番組では、天気予報のお姉さんが眉を下げて視聴者に注意喚起している。
リビングでごろごろとテレビを眺める沙那は、忙しそうに身支度を整える瀬名を見やった。
通っていたデザイン専門学校の卒業式を、先日無事終えたばかりの瀬名。
今日は学校主催の卒業制作作品展の最終日。
春休みの真っ最中であったが、彼女は自分の出展パネルを回収すべく、専門学校近くの商業ビルまで出向かねばならなかった。
「三月ってこんなに風吹くんだね。お姉ちゃん、飛ばされないように気を付けてよ」
「あはは、私そんなに軽くないよ」
リビングのテーブルに置いたスタンド型の鏡の前で、瀬名は長い髪を櫛ですきながら笑う。
「ちまっこいお姉ちゃんなら有り得る!
てか、電車止まらないといいね。それにこんな風の中、パネル持って帰れる?」
「何とか頑張るよ」
「もし無理だったら連絡してよね。私、今日は公休でずっと家にいるから」
「え、でも…原稿は大丈夫なの?」
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