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「やっぱり最初は疑ってた。信用していいのかなって」
ならば何故、という星也の声を待たずして沙那は続ける。
「とりあえず会って話だけ聞いてみようってシフト出来たのは、スランプ状態から抜け出したかったってのが大きいと思う。
自分の中で満足いく仕上がりになってないのに、惰性的に活動続けてたところがあって。暗がりをもがいてるような感じからちっとも抜け出せなくて。
この際、私を認めてくれた人に賭けてみよう、って思ったの。
今は保志沢さんを…人として、信頼も、尊敬も出来てる」
「そうか」
前を向いた彼女の発言に安堵しながら、ざわり、と星也の胸の奥が音を立てた。
嫉妬、だなんて。
男嫌いを主張していた彼女が心開ける相手を見つけられたのだから。それも相手が自分の友人なら、尚更喜ばしい事なのに。
「恋愛感情は」
思わず問い掛けていた自分に星也は驚き、一方の沙那も不意を衝かれたようで、垂らしていた首を彼に向けた。
「保志沢さんに?」
「ああ」
「ないよ」
手短な答えに、星也は心底胸を撫で下ろす。
と同時に、己の器量が酷く小さく思え、彼女への想いも改めて痛感せざるを得ない。
「聞いてくれてありがとう。私一人でベラベラ喋っちゃった」
「いや…」
スッキリしたと言いながら沙那の面持ちはどこか憂いげに、神妙さが漂っている。
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