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家主のいないマンションの一室で、ソファーに横たわる沙那の眠りが深まり始めた頃。
彼女の本来の住まいであり、かつ姉の瀬名も住まうアパート前に、一台の乗用車が停まった。
夜の闇にボディの輪郭が滲んでいるが、その車は紛れもなく水上のものである。
停止した車の助手席から下りたのは、もちろん瀬名だ。
背面のアパートをバックに、奥側の運転席の彼に別れの挨拶を告げる。
名残惜しさを胸に手を振り、彼の車が角を曲がってテールランプが見えなくなるまで見届けた。
(沙那…やっぱり戻ってないか…)
自宅に妹がいる気配はない。
リビングの電気がつけっぱなしであったため瀬名は少し期待を抱いたが、沙那が慌てて家を飛び出した痕跡に過ぎない。
予想はしていたものの、無人の自宅という現実に、静まり返った室内に瀬名の息が漏れた。
と、彼女の肩に提げられたバッグの中で、携帯が小刻みに揺れた。
着信だと気付いてそれを取り出し、すぐさまディスプレイを確認する。
“マスター”
つまり保志沢からであり、本日彼女の携帯が受ける二度目の連絡だ。
ちなみに一度目の連絡は小一時間程前の事、“コンビニで沙那確保”という旨である。
『もっしもーし、瀬名ちゃん?沙那ちゃんの事だけど』
「は、はいっ。ご迷惑お掛けしてます。どうなりましたか?」
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