暗がりの中で。

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気が急いてしまう瀬名とは対照的に、保志沢の口調は至って呑気だ。 『事後報告になっちゃって悪いんだけどね。沙那ちゃん、ウチで一晩預かる事にしたから』 「えっ」 まるで幼子かペットの世話でも引き受けたかのように、さらりとのたまう保志沢の声。 (ウチ、って…マスターの自宅って事!?) 聞き間違いじゃなかろうかと、瀬名は携帯を耳に強く押し当てた。 『ちなみに俺は仕事の付き合いで、朝まで家に帰れないから』 「…?マスターの家に、沙那が一人でいるって事ですか?」 『ピンポーン。 あー、でも、もしかしたらあと一人加わってるかもしれない』 「えっ、だ、大丈夫なんですかっ」 再度疑問を投じた瀬名の携帯越しに、保志沢はまるで現況を楽しむかのように軽く笑い声を上げる。 『あはは、そんなに心配そうにしなくても。 もう一人は沙那ちゃんの知り合いだから安心だって。まぁ泊まるかどうかは俺にも分かんないけどね』 その言葉に、瀬名の不安が安堵へと切り変わった。 保志沢があえて“沙那の知り合い”と表現したお陰で、瀬名の脳裏に星也の姿は微塵も過らない。 本来は沙那の知り合いどころか、保志沢、そして瀬名自身をも含んでいるというのに。 沙那の知り合いなら、きっとイベント関係を通じた同性の友達だろうと、瀬名の思考は何故かそう定まってしまった。 保志沢への信頼もあったのだろう。彼が言うなら、と。 一体何がどう“安心”なのか、冷静に考えを及ばせれば、それが酷く不確かである事に気付けたはずなのに。
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