暗がりの中で。

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「何を狙って…」 ようやく発した星也の声に、沙那は「土地」と端的に答える。 イコール財産、という事だろうか。 「…土地…?」 「そう。生前のお父さんから譲り受けてた土地」 沙那の注釈を皮切りに、簡潔な説明が始まった。 もともとその土地は、彼女の父親が代々引き継いだもので、戸建て住宅建築に向けて名義が両親の名になったという。 だが直後に父親は逝去。 母親は土地は売却せずに守りを貫いた。 一方でその土地の近辺は、開発等により市場価値が膨らみ、急激に地価が高騰した。 そこへ突如現れた“新しいお父さん候補”として名乗りを上げた人物。 彼は母親に好意があるふりをして近付き、固定資産税を免除する方法があるなどと巧みな話術で誘導。 土地を売却し、得た金銭を詐取しようと目論んでいたというのだ。 「結果としては、寸前で気付いて売りには出されなかった。 でも、家族皆が傷付いて…特にお母さんはボロボロになった。 私も…悔しくて…どうして、あんなに優しかったのに、って。 裏切る為に近付かれたのに、優しさに惹かれて好きになった自分が、凄くショックで…」
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