暗がりの中で。

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義理の父になるかもしれない人―――好きになってはいけない人を好きになった。 その自覚は罪悪感も同時に生み、芽生えた感情を消そうと必死になったに違いない。 長らく父親不在の環境で、父親に対する羨望と男性に対する理想が入り交じり、次第に恋愛感情にスライドしてしまったのだ。 そんなジレンマを抱える中での、彼の裏切り。 信頼も、恋慕に似た感情も、全てが崩れ去った。 邪な彼の本性を見抜けなかった自分、そしてそんな彼に好意を寄せてしまった自分に対する嫌悪にも苛まれた。 大人の欲望に満ちた欺瞞を目の当たりにし、当時高校生になったばかりの彼女に残ったのは、世の男性への不信感と敵対心だ。 信じてはいけない。 信じたら、傷付けられる。 男というものは、欲のままに簡単に人を欺き陥れる生き物なのだから、と。 「……それが、原因か…」 星也が独り言のように呟いた。 「お姉ちゃんは『そんな人ばかりじゃない。男の人の中にもいいひとはいる』って前に言ってた。 でも、駄目。信じたら、また裏切られるってすぐに思っちゃって…」 「保志沢は大丈夫なのか」 「…今は、信頼してる。グループの一員として。 この間の事も、凄く感謝してる」 この間―――あぁ、アイツのマンションに泊まった時の事か、と星也が理解すると、沙那は「でも」と言い足した。
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